非常に当たり前の事である。しかしあっさりと相手にばれてしまう。ばれないようにするにはどうするのか。ここではあくまでも一例である。どちらかというと不得意なプレイが何かがばれないようにするというよりも、相手が不得意とするプレイが何かを感じ取る、という話かもしれない。
大学時代、同期にすごく強いやつがいた。1回も勝てなかった。そいつはすごいボールを打つというよりは、相手よりも少し上のレベルのテニスをして勝つという感じで、取りこぼしがない。しかも強い相手と試合をすれば、相手以上のすごいテニスをやって勝ってしまうというタイプだったと思っている。
そんな彼と試合(練習試合)をする時にいつも心がけていた事が、センター中心にボールを配給する事だった。これは後の節で書いているセンターセオリーにもつながるのだが、それよりも次のような理由からだった。
先に彼の特徴を書いたとおり相手より自分を少し上のレベルにして試合運びをする感じがあり、センターよりのボールに対してはつないでくるという感じのボールが多く、こちらも攻める事ができる可能性が高かった。一方クロスでサイド寄りに打った場合、クロスにしぼればしぼるほどすごく速いボールでしぼり返されたり、前衛サイドをすごいボールで抜かれたりして、エース級のボールを打ち返される事が多かった。
このような経験からクロスにしぼってはいけない。卒業するまでクロスが得意だと思っていた。しかしである。卒業後何かの機会に、この話をしたら意外な答えが返って来た。
それは、「クロスは不得意なんだよね。」という答えだった。レベルの差はあるにしろ、本人の中では不得意な方だったらしい。本当か? ちょっと信じられなかった。あんなすごいボールを打っていたじゃないか、と思った。
しかしよく考えてみれば、彼のプレイスタイルは相手より少し上のレベルにして試合をするのに、クロスにしぼられたボールに対してだけは確かに相手によらずすごいボールを打ち返していたような気がする。
不得意だからこそ、そこに打たれたくない。ボールを集められたくない。だからそのコースに来たボールは一発勝負的な気持ちですごいボールを打って、相手にそこには打たない方がいい、と思わせるようにしていたらしい。
完全に騙されていたと気がついた。クロスにしぼろうとは思わなかった。センター中心に配給した。そこは彼が得意なコースだった。得意だからこそ無理する必要がない。きっちりコースを狙って打っていけばいいわけである。すごいボールではないからこちらも打ち返せるが、最後は技術の差で負けてしまう。完全に相手のペースで試合をしていた事になる。
同じ相手と何度も試合をする事がないかもしれない。しかし試合前の乱打と1ゲームもすれば相手の特徴がわかると思う。その特徴から考えて不自然な配給や球種を打つ場合、それは案外不得意なプレイやコースを隠すためのものだったりするのかもしれない。